「月の満ち欠け」(佐藤正午)(岩波書店)

「輪廻転生」の問題を、この様な綺麗な恋愛小説として扱った作品は、今まで読んだ記憶がありません。

「輪廻転生」と言う昔から言われている問題を信じるかどうか別として、人が生まれ変わってももう一度会いたいと言うそれほど強い気持ちを持った愛情が、存在するのかと言うことも気になります。

この小説の中でも、そこが一番気になります。

初っ端の切っ掛けとなる哲彦と瑠璃の関係が、それほどのものの様には読み取れません。

むしろ、そうではなくて、瑠璃の「輪廻転生」を望む気持ちが非常に強かったということでしょうか。

「月の満ち欠け」と言うタイトルも、月の満ち欠けの様に、人が生を受け死に再び生を受けると言う、瑠璃の「死」に対する考え方からきています。

序盤のこの「輪廻転生」への期待感を扱った小説から、終盤では「輪廻転生」に至る愛情の強さに話が変わってゆきます。

そのあたりに、この本の、いやこの問題を扱う小説の限界がある様に思えます。

ただ、非常に上手く纏められており、「読ませる」小説になっていると思います。

だからこその「直木賞」だと思います。